2024年2月4日日曜日

ハーゲン


トッパンホール(2023.11.2)
 自社ビルの一階に設けたこじんまりしたホール。
定年間近、あるいは定年過ぎて尚ビシッとした勤め人の人生を過ごしていらっしゃる様子のシニアさんの姿が目立つ。それが何かしら、ゆったりと落ち着いた感じを醸し出し『コンサートは演者と聴衆の共同作業によって成り立つ』と言うことを実感させる。
 コロナ禍を経て久々の来日となるハーゲン兄弟姉妹+【そこに紛れ込んだだけなのに恰かも真の兄弟であるかのように、おそらくは本人も思い込んでいるのであろうひとり】は、それなりに齢を重ねた風情を見せつつ、ファーストのルーカスは前回神奈川県立音楽堂でみた時よりは幾分スリムになった様だったし、紅一点のヴェロニカ様は変わらずツンと背筋を伸ばし、気品ありげな立ち居振舞いがサマになっていた。セカンドのシュミットおじさんの突き出たお腹は相変わらずだったけれど。
 モーツァルトが始まる。
 音が流れ始まれば「果たしてこれが、日ごろ自分の垂れなかしているガサツな、ギクシャクした音と、同じ構造を持った箱から発せられるものなのか?」という限りなく失望に近い感嘆をもたらすものであるのは変わらず。そして4つの楽器が同じ音色で、それこそ4台でひとつと思えるような融合を見せているのが、悔しい。悔し紛れに「4人各々の持ち味を保ちながらもハーモニーを組み立てるのもひとつのあり方ではないか」とか思ってみるが、「それが西洋の伝統に培われた『美意識』に則ったもの」というものなら、やはり彼らに軍配が上がるのは明白だろう。
 さて、もう一方のコンサートを成立させる要素となる聴衆だが、メインの大フーガ(付きの13番)の最後の音が鳴ったあとも、演奏者達と供にその余韻を充分に味わって、ハーゲン達がフォロースルーのあとのフリーズを解いた気配を見てから怒涛の拍手。カーテンコールを繰り返す毎に喝采は高まりながら、終演の客席明転でアンコール無しを了解してそそくさ帰り支度という筋の良さを見せたりしていたのだが、何より感動したのは、件のバリッとした背広姿、揃いも揃って後退気味の白髪を湛えた初老のシニア達が、休憩時間など、席を立つこともなく、思い思いに持参の本を手にして読書し始めた事である。
 事ここに至ると、「ワシらクラシックファンの中でもツウだし、高尚かつ知的な人生送ってるもんね」といった匂いが漂ってきてしまって「なるほどね、そんなもんか」とひとりごちするのであった。

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