2021年8月7日土曜日

幻覚妄想の生成過程

ドーパミン仮説ってのは、幻覚妄想に関わっている神経伝達物質がドーパミンであるという話しなんだけれど、誰も突き止めたわけではなく、ドーパミンのアンタゴニストが精神病に効果あるから、その説明としてドーパミン過剰が精神病を引き起こす「のではないか」といっているもの。

これに対して難治性統合失調症治療薬の切り札として使われるクロザピンはドーパミン遮断作用はいたってヘナチョコなので、「いったいどういうことなんだ」という話になる。

ドーパミン以外にヒスタミンだとかなんだとかと言ったりするのだが、結局仮説レベルでああだこうだと言って、一つに絞られることはない。「病歴の短い場合にはドーパミン遮断でうまくいく」とか「慢性期にはMARTA」とか言うのは、臨床現場での経験則にしたがって言っている話だと思うが、じゃあ臨床精神科医はドーパミン仮説を否定するのかと言うと「仮説はあくまでも仮説。真偽はわからないものだから」とかいって、やっぱりD2シャープな薬とMARTA戸を使い分けている。

これって、幻覚妄想が脳内のワンアクションで出現すると思ってると「どっちなんだ」と言う話が永遠に決着付かない気がする。

例えば

1)意欲低下、自発性低下などのパフォーマンスの低下

2)「どうしちゃったんだ?自分!」という違和感

3)「自分いったいどうなる?!」という不安・恐慌

4)「これは自分以外の誰かのさしがね?」という猜疑心

5)認知機能の過敏(いない人の声が聞こえる)、すなわち幻覚

6)被害妄想にかられた行動化

といったような、何段階かの心的過程を経て、統合失調症の急性期状態が形成されると考えれば、ドーパミン遮断は(5)の過程の進行を止めることで向精神病効果を発揮するとか、MARTAは(3)に作用して効き目があるとか、効果を発揮する段階が薬によって違うと考えれば「なんだ、そういうことか」と腑に落ちる気がする。 

そもそもドーパミンの過剰にしても、それが原因なのか結果なのかという段階からわかっちゃいないのである。「報酬系」の神経伝達を司るドーパミンの放出が盛んになされているというのに急性期の統合失調症は全然気持は安らかではなく、この世の終わりだとか世界中が自分に敵対しているとか、そんな二進も三進もいかない精神状態に『追い詰められている』。統一的に理解するには、「どうにしてもやる気が出ない、頭の中が空っぽでなにもできない」といったいわゆる陰性症状に対して、自分自身で意欲を奮い起こすべくドーパミンを過剰分泌していると考えた方がしっくりくるんじゃないか。となると報酬系・自発性を司る前頭葉機能などが『なぜか』低下してしまったことに対する反応として、ドーパミンの過剰分泌という現象が生じるのではないか。そんなふうにも考えてしまう。


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